架空伝統ゲーム「机戦」の AI を強くするため、盤面を効率よく保持する
この記事は筆兵無傾 Advent Calendar 2022 と ボードゲーム・パズルプログラミング Advent Calendar 2022 の 7 日目の記事です。日本時間だと遅刻ですが、私はいまアメリカ合衆国にいるので遅刻ではありません(ズルい)。
経緯
さて、両アドベントカレンダーの 3 日目の記事である ↓ で、 id:primenumber が以下のような記事を書いてくれました。
これをもとに作業していただいた結果、「1〜2桁くらい速くなるとできることだいぶ増えそう」と言われました。
現状の実装は「まあ速いとうれしいけど、速さだけを求めるのは本当に速さが必要になってからでいいよね」というモチベで 2 年前に TypeScript 実装から手で移植したもののはずで、そんなに効率的な実装にはなっていませんでした。
この issue にあるように、「(将棋の角や飛車、チェスのルークやビショップのように)長距離移動する駒の動きを別の駒が妨げているかどうかを知りたい。どのマスを見ればいいか」というのを計算する関数が少し遅く、しかもこれは非常に呼ばれる回数が多いため、全体の実行時間をかなり占めてしまっていたとのことでした。
提案に基づきここを改善したところ、次は
これはどういうことかというと、数年前に TypeScript 実装を書いたとき、「片側から見たときの駒の動きを実装し終えた。もう片側も実装するとなると面倒なので、逆側から入力が来たら、盤面を回転させて関数を呼んで結果をもう一回回転させよう」という横着をしたのが原因で、AI が手を計算しているあいだ盤面が一生クルクルしており、そのクルクルで全体の 27.24 % の実行時間を消費してしまっていたのでした。
「それぐらい予見できただろ、なんで横着をしたんだ」と思われるかもしれませんが、この「机戦」というゲームは
- 駒を踏んでそこからさらに移動する動きがあり、踏む駒の位置とそこから移動する目的地を順に指定させねばならない
- 指し手を決める途中でサーバーに乱数を問い合わせ、それに基づき可能な手の候補を削り、クライアント側に返す必要がある
- 到着地点が水色マスである場合、乱数を発生させ、出目不足なら指し手をキャンセル
などと、遷移する必要のある状態数がかなり多く、それらを全てバグらせずに組むのがあまりに面倒だったので、最大限に横着をしたかったのです。
そうは言っても、遅いせいで AI の開発の妨げになっているならよろしくない。ということで、コードを調べ、いろいろいじり、rotate_board を削除しました。
問題
とはいえ、そもそも速く実行できるようにすることを意識していないコードなので、それをリファクタリングしていって速度を上げていくというのにも限界があります。現状の遅い実装はリファレンス実装とし、「メモリへの優しさを最優先した構造へと書き換える」をやらないといかんという結論に至りました。
49 駒それぞれの位置と状態を記憶すると、49 バイトで必ず収まるというメリットがある一方で、このゲームのゲームロジック上では「特定のマスが空きマスかどうか」を判定する機会が多く、それがいちいち面倒となるデータ構造ではよろしくないと考えました。
一方、このゲームには持ち駒の概念があります。よって、そちらについては「48 駒それぞれについて*1、どちらかの持ち駒になっているか、それともどちらの持ち駒でもないのか」を保持する、という方針にしました。
紆余曲折
諸事情*2により、空マスを表す番号は 0 にしたかったので、最初はこのような駒番号割り当てを考えていました。
この番号の振り方は、伝統的事情とコンピュータ的事情を融合させた割り当てになっています。というのも、id:yasusho1020 が手作業で机戦の駒を彫るときには以下のような工程を経るのですが、
まずはでんぷんのりで字母紙を貼り付け pic.twitter.com/PQmQHd9vnr
— SY@架空世界創作者 (@S_Y15) 2022年2月17日
3Dプリンター製の治具(左奥)と手ノコで8つずつに切ります。この8つを1単位にして隊(ニェ)と呼びます。 pic.twitter.com/cQ2CZc5wFu
— SY@架空世界創作者 (@S_Y15) 2022年2月18日
この字母紙が以下のような配列になっているので、それを踏襲して順序を決めました。
また、赤黒を交互にして縦列の順で読んでいくというエンコーディングにすることで、
- 最下位ビットで色
- 不等式評価で役職
が手に入り、コンピュータにやさしい(素早く計算できる)、という考えがありました。
しかしながら、id:primenumber から「兵が1スタートでなく0スタートにした方がbit演算とか表引きとかに便利そうかなあと思いました」という意見がもたらされ、「そうだよなぁ、どうしようかな」と思っていたところ、非常に上手いアイデアが寄せられ、
これを採用することにしました。
結論
以下のような番号割り当てを採用することにしました。(0o は 8 進数を表す表記)
盤面に関しては 9 × 9 の空間に直に駒番号を書いていき、持ち駒に関しては、例えば下のような盤面については持ち駒を右図のように抜き出し、それぞれの枠に
- 上向きなら 01
- 下向きなら 10
- どちらでもないなら 00
という 2 桁を書き、2 進数 96 桁で 12 バイトとする、という方針に決めました。
この方法だと、盤面全体が 81 + 12 = 93 バイトに収まるだけでなく、様々な演算をビット演算で書くことができて機械にやさしいです。
以上の話は ↓ のリポジトリにまとめてあります。
今後の展望
学期末を乗り切り、冬休みに入ったら、これらをもとに可能手を爆速に列挙できるようにしたいですね。まあ既存実装をほぼそのまま移植することになりそう。