語学と私 (part 4) ― ご縁あってナワトル語の履修が 3 年目に入りました

この記事は 言語学な人々 Advent Calendar 2022 の 25 日目の記事です。

 

今までのあらすじ

hsjoihs.hatenablog.com

 

hsjoihs.hatenablog.com

 

hsjoihs.hatenablog.com

 

最後にこのテーマについて記事を書いたのが 1 年半前という遅筆。今日も「アドベントカレンダーに登録したからには記事を書かなきゃなぁ」と思いつつ、昨日のワクチン接種の副反応を言い訳にスーパーマリオ 64 の A ボタン縛り TAS の通史動画を見るなどの有意義なクリスマスの過ごし方をしていたところ、

 

このアドカレの主催者である id:yearman(まつーらとしお)さんから催促ツイートが来たので、いま大急ぎで文をしたためているというわけです。

 

さて、そんな話はどうでもよくて、本題に移りましょう。

本題

詳しくは過去記事を見ていただければと思いますが、授業一覧を眺めていたところ、「今まで私の人生になんだかんだ少しだけ縁があった言語であるナワトル語の授業が開講されている」ということに気づき、履修してみることにしました。

このように、1 年目は「Zoom に TA がいて、ネイティブの先生がスペイン語で話した内容を英語に同時通訳して Zoom チャットにひたすら書き込む」という方針だったのですが、2 年目になったらその TA がいなくなり、スペイン語を真面目に聞き取る必要が発生しました。

 

普通にスペイン語そんなにわかんないので大変で、授業も正直そんなに理解できていない気がします。その中でも特にキツかったのはこれと、

 

あとこれでしたね。

 

さて、なんとか 2 年目も終わらせ、夏休み。アメリカの大学は秋学期から年度がスタートするので、次の年度の履修を確認してみたところ、SPECLANG 103A: Third- year Nahuatl- First Quarter は Last offered: Autumn 2017 と書いてあり「あー、今年は 3 年目のナワトル語の授業は開講されないのか。まあしょうがないよね。じゃあ ASL (アメリカ手話) でも取ろうかなぁ」と思っていたところ、

 

つまり「そっちの都合に合わせて開講するからどのタイミングなら空いてるか教えてくれ」というメールが来ました。ということで、3 年目も履修することとなったのです。

今学期の内容

 

ちなみに、前述の通りわたしはあんまりスペイン語ができないので、

  1. 渡されたナワトル語文を急いでなんとかスペイン語に逐語訳する
  2. その逐語訳に(主にスペイン語文法上の)誤りがあるので、それをネイティブの先生に直してもらう
  3. もう一度直された文を読み上げ、これで本当にいいか確認する(一般に、文字だと気づかない誤字も、耳で聞くと気づくことがあるので)
  4. その文を DeepL に突っ込み英文にし、「あ〜〜そういうストーリーラインなのね〜」と納得する

というプロセスでなんとか授業に喰らいついていっています。なので上記のわたしの解釈には普通に誤読があるかもしれません。

 

あんまり言語学の話ができていないな

そういえばこれは「言語学な人々 Advent Calendar 2022」の記事なのでした。このままでは語学記事になってしまう。(まあ「言語にまつわるエピソード,エッセイ」もオーケーとのことですが)

 

ということで、もうちょい言語学寄りっぽい話でもしますかね。日付が変わるまでにあんまり時間がないので、とりあえず音声の話だけ。

帯気

スペイン語と同様、オンセットの破裂音は帯気しません。

2022 年 12 月頭に「みなさん IPA で書かれた音素列を見てどれくらいいい感じに初見の言語読めるんだろう」と気になって、

teˈnant͡siˈtˡawelkʷalanˈtojakemamoˈkʷapʰkipampaʔaʃˈwel̥kikiwaˈlikaˈʔatˡʰpanˈʔajatˡʰ wannel̥kʷaˈlaŋkikemakiˈʔitakʰˈnopatˡaˈjolitˡeŋkitepehˈtehki | t͡ʃikomeˈʃot͡ʃitˡʰkitentoˈjajapaŋˈkomitˡʰ

を読み上げさせてみたところ、ゆーちきさん (id:yuchiki1000yen) がやってみてくださり、

 

「ガチ初見がこんな感じ」として以下の音声を、

https://cdn.discordapp.com/attachments/831728193031503933/1049305766831595531/334e4a9858e9a718.m4a

 

「数分練習したあと」として以下の音声を提示していただけました。

https://cdn.discordapp.com/attachments/831728193031503933/1049305870766448711/e0c38957c8d7515b.m4a

 

感想としては、全体的にかなり上手く読みあげられているものの、「この言語、オンセットは帯気しちゃいけないんですよね」という気持ちが第一に出てきました。

 

日本語はかなり有気と無気の両方が free variation で頻出する一方で、ロマンス諸語とかは「有気と無気に対立がないといえばないが、一方で有気で読まれるとそもそもめちゃめちゃ違和感がある」んだなぁというのを改めて実感しました。

 

ちなみに、https://www.sil.org/system/files/reapdata/47/26/65/47266563262242678149396571357053294485/15362.pdf に明示的に記載がある通り、コーダは帯気します。韓国語みたいな

  • 입다「着る」 [ip̚t͈a̠]
  • 있다「いる・ある」[it̚t͈a̠]
  • 읽다「読む」[ik̚t͈a̠]

を聞き分ける苦労とは無縁。

声門閉鎖

スペイン語は母音連続の間に意地でも声門閉鎖を入れず、同じ母音が連続するときにはなめらかに繋げて読まなければなりません。

しかし、ワステカナワトル語では二つの母音が形態素をまたいで連続するときには間に声門閉鎖が挟まれるという現象があり(先述の https://www.sil.org/system/files/reapdata/47/26/65/47266563262242678149396571357053294485/15362.pdf にもそう書いてある)、その影響なのか、スペイン語で va a comprar とかを言う際にも先生は a の前に声門閉鎖を入れていました。

o と u

ナワトル語*1は o と u を区別しません。それが如実に現れていたのが、1 年目の授業で先生が未来形の解説をしているときのこの一枚。

スペイン語では未来を futuro というのですが、ご覧の通り、右では futuro と綴っているにも関わらず、左では foturo となっています。なるほどなぁ。

 

感想

ナワトル語学習歴ももう 3 年目に入りましたが、なんだかんだ面白くて貴重な経験ができていると思います。

 

まず、意外とインターネットにはナワトル語話者もいるので、普通に書く機会は探せばあります。

 

あと、単純に話のネタとしてウケがいいというのもあります。アボカドとかワカモレとかコヨーテの語源の話をするもよし、実はスペイン植民地時代のメキシコでは結構長い間ナワトル語で裁判とかの行政をやっていた話をするもよし、フランス語の文法書がこの世に生まれるよりも前にナワトル語の文法書が在ったという話もよし。

 

さらに、わたしは「人間の言語ってどういう挙動をするんだろう?」という問いに対するデータセットをなるべく脳内に蓄えたいというモチベがあるので、語学書とかを買いまくって乱読したりしているのですが、

こういう文法書の乱読をして「面白かった〜」とだけなって単語を 3 つだけ覚えて終わるような語学の向き合い方だけではなく、テストを課されて単語暗記を強要されて真面目に文を読み書きできるようになる語学というのをやれたのは良かったと思っています。

 

よし、現在 23:59!

*1:というか、古典ナワトル語とワステカナワトル語。他の方言では区別するところもあるらしい