2次元調和振動子(古典力学)

概要

ベルトランの定理により、軌道が必ず閉軌道になるような中心力ポテンシャルというのは調和振動子ケプラー問題だけであることが知られている。ケプラー問題においては、エネルギーと角運動量だけでなく、離心率ベクトル(ルンゲ=レンツベクトルの定数倍)という幾何学的な意義のあるベクトルが保存量となるということが知られている。じゃあ2次元調和振動子のときには何が保存されるのか。気になったがググってもいい感じの資料がヒットしない(みんな量子の方の話ばかりしとる)ので、自分で考えてみることにした。

2次元調和振動子

初期位置 $\vec{X} = (X, Y)$, 初速度 $\vec{V} = (V_x, V_y)$ で質量 $m (>0) $ の粒子を調和振動子ポテンシャル $U(x,y) = \frac{1}{2}m\omega^2 (x^2+y^2)$(ただし $\omega \not= 0$) の中に投げ込んだとき、粒子は時刻 $t$ には位置 $\left(X\cos\omega t + \frac{V_{x}}{\omega}\sin\omega t,Y\cos\omega t+ \frac{V_{y}}{\omega}\sin\omega t\right)$ にある。時間に対する並進対称性があり、回転対称性もある系なので、総エネルギー $ \frac{1}{2}m(v_x^2+v_y^2) + \frac{1}{2}m\omega^2 (x^2+y^2)$ と角運動量 $mx v_y - my v_x$ は保存量となる。角運動量が非ゼロなら軌道は中心を原点とした円か楕円であり、いずれにしても閉軌道をなす。

以下長いので、まずはdesmosで書いた初期位置と初速度いじれるやつで遊んでみていただきたい。

www.desmos.com

ここで、楕円の2つの直交する軸を表す青い2直線は、$\left(x^{2}-y^{2}\right)\ \left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+\ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)=0$ として描画している。初期条件だけに基づいて、楕円の幾何学的特徴を表す存在を描画できているようだ。ということで、こいつについて調べてみよう。

証明パート

補題0

実数$A, B$ に対して、写像 $(x,y) \mapsto A\left(x^{2}-y^{2}\right)+2Bxy$ を考える。$A=B=0$ であればあらゆる $(x,y)$ に対しこの写像は $0$ を返す。それ以外の場合、2つの直交する軸が存在して、それら2軸上のベクトルに対してのみこの写像は $0$ を返す。

補題0の証明のsketch

$A=B=0$ については自明。そうでなければ、$A\left(x^{2}-y^{2}\right)+2Bxy=0$ を $\begin{pmatrix} x & y\end{pmatrix} \begin{pmatrix} A & B \\ B & -A \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y\end{pmatrix} = 0 $ と書くと、$\begin{pmatrix} A & B \\ B & -A \end{pmatrix}$ の行列式は $-A^2-B^2 < 0$.

$\begin{pmatrix} A & B \\ B & -A \end{pmatrix}$ は実対称行列なので直交行列により対角化可能で、元のトレースが $0$ なのだから対角行列もトレースが $0$、元の行列式が非ゼロなのだから対角行列も行列式が非ゼロ。つまり直交行列 $P$ と実数 $C \not= 0$ が存在して、$A\left(x^{2}-y^{2}\right)+2Bxy=0$ を $\begin{pmatrix} x & y\end{pmatrix}P^T \begin{pmatrix} C & 0 \\ 0 & -C \end{pmatrix} P \begin{pmatrix} x \\ y\end{pmatrix} = 0 $ と書ける。直交する2ベクトル $P^{-1} \begin{pmatrix} 1 \\ 1\end{pmatrix} $ と $P^{-1} \begin{pmatrix} 1 \\ -1\end{pmatrix} $、およびこいつらのスカラー倍だけがこの式を成り立たせることは簡単に確認できる。

補題1

初期条件が円軌道(粒子が原点に居座る場合も半径$0$の円軌道と見なす)を与えることと、写像 $ (x,y) \mapsto \left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ が恒等的に$0$を与える写像となることとは同値である。

補題1の証明のsketch

初期条件が円軌道を与えるならば、中心が原点の円軌道であるので、角運動量保存により角速度は一定である。よって等速円運動である。周期の一意性より角速度$\omega$の等速円運動であるので、初期位置 $\vec{X} = (X, Y)$ と 初速度 $\vec{V} = (V_x, V_y)$ は直交し、 $|\vec{V}| = \omega|\vec{X}|$ である。 つまり $V_x + iV_y= \pm i \omega (X + iY)$ であるので、両辺を2乗すると $(V_x^2 - V_y^2) + 2iV_xV_y= - \omega^2 (X^2 - Y^2 + 2iXY)$ であり、実部どうしと虚部どうしを比較すると $V_x^2 - V_y^2 =  - \omega^2 (X^2 - Y^2)$ と $2V_xV_y=  - 2XY\omega^2$ が分かる。したがって $\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY = 0$ と $\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right) = 0$ が分かるので、写像 $ (x,y) \mapsto \left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ は恒等的に$0$を与える写像となる。

逆に、写像 $ (x,y) \mapsto \left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ が恒等的に$0$を与える写像であれば、補題0より $\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY = 0$ と $\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right) = 0$ が分かる。ここから$(V_x^2 - V_y^2) + 2iV_xV_y= - \omega^2 (X^2 - Y^2 + 2iXY)$ であり、$V_x + iV_y= \pm i \omega (X + iY)$ であり、原点中心の等速円運動である。 

補題2

角運動量が $0$であり、粒子が原点に居座るのでないならば、写像 $ (x,y) \mapsto \left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ は、振動方向に平行または垂直なベクトルが入力されたときのみ $0$ を出力する写像となる。

補題2の証明のsketch

角運動量が $0$ であるなら $\vec{X}$ と $\vec{V}$ は平行(含ゼロベクトル)である。粒子は原点に居座っていないので、非0な複素数 $Z$ と少なくとも片方は非0な実数 $a$, $b$ が存在して $X + iY = aZ$, $\frac{V_x}{\omega} + i\frac{V_y}{\omega} = bZ$ と書ける。そうすると $\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY = \frac{1}{2}\mathrm{Im}(b^2Z^2) + \frac{1}{2}\mathrm{Im}(a^2Z^2) = \frac{a^2+b^2}{2} \mathrm{Im}(Z^2)$ と $\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right) = -\mathrm{Re}(b^2Z^2)-\mathrm{Re}(a^2Z^2) = -(a^2+b^2)\mathrm{Re}(Z^2)$ が成り立つので、$z = x + iy$ と置けば $\left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right) =\mathrm{Re}(z^2)\frac{a^2+b^2}{2} \mathrm{Im}(Z^2)-(a^2+b^2)\mathrm{Re}(Z^2)\frac{1}{2}\mathrm{Im}(z^2)$ であり、こいつは $-\frac{a^2+b^2}{2}|Z^4|\mathrm{Im}\left(\frac{z^2}{Z^2}\right)$ と書ける(一般に $bc-ad = |c+di|^2 \frac{bc-ad}{c^2+d^2} = |c+di|^2 \mathrm{Im}(\frac{a+bi}{c+di})$ であることから従う)。 $-\frac{a^2+b^2}{2}|Z^4| \not= 0$ より、例の写像は $\frac{z^2}{Z^2}$ が実数であるときのみ $0$ を出力する写像であり、つまり $\frac{z}{Z}$ が実数または純虚数であるときのみ $0$ を出力する写像であり、$(x,y)$ が  $\vec{X}$ と $\vec{V}$ の両方と平行、または両方と垂直、である場合のみに $0$ を出力する写像である。

主定理

楕円軌道であるならば、写像 $(x,y) \mapsto \left(x^{2}-y^{2}\right)\left(\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY\right)+ xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ は、楕円の短軸か長軸と平行なベクトルが入力されたときのみ $0$ を出力する写像となる。

主定理の証明のsketch

楕円軌道にならない場合については補題1と補題2で考察した。ということで、角運動量は $0$ ではないし、$\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY$ と $\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)$ のどちらかは非ゼロである。

$\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+ Y^{2}-X^{2} = 0$のとき

$\frac{V_{x}}{\omega}\frac{V_{y}}{\omega}+XY$は非ゼロである。写像は $(x,y) \mapsto + xy\left(\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+\left(Y^{2}-X^{2}\right)\right)$ なので、この写像は $x$ 軸上の点と $y$ 軸上の点に対して、かつそのときのみ、 $0$ を出力する。

$\frac{V_{y}^{2}-V_{x}^{2}}{\omega^{2}}+ Y^{2}-X^{2} \not= 0$のとき

読者への演習課題とする。(まだ書き切れていないので後日書き上げて公開するかもしれません)